MOTHER'S ROCK

Rock
Illustration by Baobab

リアリティーエンジン

この街はとてもリアルだった。 とてもリアリティに富んでいたと言った方がいいか、 それとも、とてもヴァーチャルに溢れていると言った方がいいか、 むずかしいところだ。

ヴァーチャルという言葉は、 よくリアルと言う言葉の対義語として扱われるが、 虚像という意味よりも、形や、様相は違うが、 事実上の、実質上のという意味である、

ヴァーチャルリアリティは、 仮想現実と訳されることが多いが、 僕は「事実上の現実」「実質上の現実」 という意味で捉える事の 方が適していると思っている。

人間の脳は現実と非現実を 区別しているわけではなく、 目や耳、皮膚など五感からの 情報を取得して信号に 変換し脳に送っているだけなので、 入力された情報に関しては 脳自体はその差を認識できていないのだ。

夢が現実に見えるのは、 それがまごうことなき現実で、 映画や小説に没入するということは、 それが疑う事なき現実で あるからだ。

例えば、僕らは目から見た情報を すべて記憶しているわけではない。 記憶に残る情報を、ピックアップして 間引きし、圧縮して送信する。

最初からデフォルメされた情報はそのまま脳に入る。 その感覚はとてもストレートで、 それゆえ、僕はそれをとてもリアル だと感じるのだろう。

センスというものは引き算だという言葉を聞いた時、 僕はその話に同意した。

僕は感覚的なリアルをとても大事にする。 巴投げで体の何倍も高く 相手の体が浮くのもとてもリアルだし、 パンをくわえた転校生と 曲がり角でぶつかるのもとてもリアルだ。 それは、キンモクセイの香りをかいだ時に、 トイレを思い出すようなものかもしれない。

そんなこんなで、 この街にとてもリアルを感じてしまった話は 長くなりそうなのでまた次回。